2007年度地域安全学会論文賞・論文奨励賞の授与
2007年度の学術研究発表会(査読論文部門)では、55編の投稿論文から査読審査を通過した36編の査読論文の研究成果が発表されました。研究発表会終了直後に行われた論文賞・論文奨励賞の審査により、論文賞については該当者なしという結果となり、論文奨励賞については以下の方々が受賞者として選ばれました。
論文奨励賞の授与式は、2008年5月30日18:00より総会会場で行われました。授与式では、山崎文雄会長から受賞者に賞状と記念メダルが授与されました。
(学術委員会)
2007年度地域安全学会論文奨励賞
覺知 昇一(東京消防庁)
「密集市街地の隅切り整備による建物に対する消防車両の接近可能性の改善効果」
このたび論文奨励賞受賞の栄誉に浴することになり、まずは御礼申し上げます。この受賞に至る過程では、指導教授である中林一樹先生(首都大学東京・都市環境学部)による継続的かつ熱心なご指導と、東京消防庁関係各位の篤いご支援がありました。ここに重ねて深く感謝申し上げます。こうした溢れる歓喜がある一方で、現在は消防行政の現場に身を置き、日ごろから地域安全の一翼を担う消防職員としての職責の重さに対する認識が日増しに深まっているところです。今後も種々なる災害の被害軽減に貢献できるよう、本学会を通じて知識・技術の研鑽に努める所存です。
【指導教員からの一言】中林 一樹(首都大学東京・都市環境学部・教授)
平成19年度の地域安全学会論文奨励賞を受賞した覺知さんの研究は,東京の最も脆弱な木造密集市街地の緊急的な防災街づくりの可能性を論考したものです。木造密集市街地は単に木造建物が密集しているだけではなく,街路基盤が未整備で,自動車の進入が困難なため,消防あるいは救急サービスが容易ではない市街地なのです。地震被害想定調査では,倒壊及び延焼火災による被害の集中的発生が危惧されている市街地です。それは,1950年に公布施行された建築基準法が求める「幅員4m以上の街路に2m以上接していること」という建築敷地の接道義務違反の状況にあるためでもあます。従って,細街路の拡幅整備は最も重大な密集市街地の街づくり課題となってきたのですが,基準法施行から半世紀以上も経ちますが細街路整備は遅々として進捗しません。
そこで,切迫性を高める地震への緊急対策の一環として,現状の狭隘街路を前提に,緊急的整備手法として「隅切り」整備を導入することによって,消防車両の小型化をも考慮しつつ,密集市街地への消防車両の進入の可能性を計測するとともに,整備事業量が制約された時の優先整備交差点の抽出を可能とする評価手法を,実市街地を事例として考究したものです。
本研究ではGISを活用した計測技術が重要な研究ツールとなっているが,このことについては吉川徹(首都大学東京)准教授に多大なご指導・ご助言を頂いたことを感謝します。また,この研究に関して「この研究は細街路整備を遅らせる,社会的には街づくりを後退させる研究である」と指摘されたこともありますが,決してそのような研究ではない。あくまでも人的被害軽減のための緊急整備として,より実現性の高い隅切り整備の有効性を計画科学的に評価したものです。この研究が,切迫する地震に直面している木造密集市街地における緊急的街づくり整備の一助となれば,指導者としても幸甚とします。
佐藤 慶一(東京大学・社会科学研究所)
「首都直下地震後に利用可能な賃貸住宅空家分布の把握」
この度はすばらしい賞をいただき、ありがとうございました。受賞論文は、東京工業大学都市地震工学センターで、翠川三郎先生、中林一樹先生らにご指導いただく機会を得て実施したものの一部で、成果は学会で報告するとともに、首都直下地震避難対策等専門調査会の準備会合で報告する機会も与えていただきました。最近は、住宅・土地統計調査の新たな活用事例ということで、統計専門誌「統計」にも、半壊算定も含めて加筆したものを掲載いただきました。今日の複雑で多種多様な地域安全課題の山積を前に、私ごとき若輩者の研究も何か役に立つ/学術的貢献ができる可能性があるかもしれないと、今回の受賞を機に気持ちを新たにしている所です。地域安全学会の諸先生・諸先輩方には、今後ともご指導ご鞭撻よろしくお願い申し上げます。
【指導教員からの一言】翠川 三郎(東京工業大学・大学院総合理工学研究科・教授)
佐藤慶一さんの論文奨励賞の論文は、文部科学省特別教育研究経費「首都圏大震災軽減のための実践的都市地震工学研究の展開」のプロジェクトの一環として行ったものです。このプロジェクトのポスドク研究員として、佐藤さんは首都圏大震災後の応急居住対策の問題に取り組まれました。本論文はその前段となるもので、既存の被害想定結果を利用して震災後に利用可能な賃貸住宅の分布をスマートに導いています。現在は、震災後の応急推移シミュレーションを行い、円滑な応急居住のための戦略を検討しています。今後もスマートな研究を通じて、巨大化・複雑化する都市震災の軽減に貢献し続けて行かれることを期待しています。
吉村 晶子((独)防災科学技術研究所・地震防災フロンティア研究センター)
「日本における瓦礫救助医療訓練施設に求められる要件に関する研究」
受賞論文の対象となった瓦礫救助医療訓練施設への取り組みは、私がEDMで働き始め、医療防災の研究を開始してより初めていただいた仕事であり、ご指導いただきました東原紘道先生まず心より御礼申し上げます。そして、施設整備検討会議への参加をEDMに要請し、また直接、災害医療現場の多くの真実を教えてくださった兵庫県災害医療センター中山伸一先生、鵜飼卓先生に深く感謝申し上げます。また、国立病院機構災害医療センター井上潤一先生を始めとする医師諸先生方、県下各消防本部の救急救助関係者の皆様には親しくお教えを賜り、さらに、兵庫県荻野勝己氏と、連名者である京都府警察加古嘉信氏、千葉工業大学佐藤史明先生には長時間に及ぶ議論に徹底的にお付き合いいただき、本当に貴重な勉強をさせていただきました。他にも、本当に多くの皆様方にご指導、ご協力を賜りましたことに心より感謝申し上げます。今後は、文字通りこれを励みとし、さらにがんばってまいりたいと思います。本当にどうもありがとうございました。
【指導教員からの一言】東原 紘道((独)防災科学技術研究所・地震防災フロンティア研究センター長)
吉村晶子さんの瓦礫救助医療訓練施設の研究は、きわめて短期間に一気に立ち上げられ、施設の具体的な設計案にまで結実しました。EDMが医療と防災という研究課題を掲げて中期計画をスタートしたのは平成18年4月でしたが、吉村さんを含む全研究員はゼロベースの出発でした。EDMの中心課題は病院自身も被災する地震災害ですが、未だ余燼さめやらなかったJR福知山線脱線事故を事例研究として取り上げました。この事故では我が国初のCSM(瓦礫の下の治療)が実施されました。それを受けて兵庫県が訓練施設の建設を目指し、CSM当事者の中山伸一先生から専門家派遣の要請があり、吉村さんを推したのが平成18年5月でした。事故調査の時点で片鱗を見せていた文献調査能力にものを言わせ、ビジュアルな処理とくに模型の活用をたたみかけた展開はフレッシュで、災害医学や警察消防の救急専門家に強い印象を与えました。今回の受賞をはげみに、なお一層励んで行かれることを期待しています。
